外国為替証拠金取引(FX)を背景にした脱税記事が相次いだ。
4月に摘発された事例では、59歳の主婦がFXや先物取引で得た4億円あまりの利益を、申告せずに1億3000万円の脱税で告発されている。また5月には、タックスへイブン(租税回避地)を利用した海外先物取引等で、7億6000万円の所得を隠し、2億7000万円の脱税を告発された無職男性が逮捕されている。
(写真はイメージ) FX取引とはそんなにもうかるものなのか? 近ごろ、昼間のテレビのワイドショーでは、5分程度の特集で、FXの魅力が紹介されている。
私は、ここでテレビでは語られない過去の闇について詳述したい。ただし、2005年7月に施行された「改正金融先物取引法」により、悪徳業者は駆逐され、FX取引業者の信用力は、以前に比べて格段に高まっていることを事前に書き留(と)めて置く。
まず、基本的なFX取引の実態を検証してみたい。
FX取引の最大のメリットは、少ない元手(資金)で大きな取引ができることだ。これは「レバレッジ(てこ)」と言われ、投資家が証拠金(担保)を取引業者に預けることで、その数倍から数10倍の金額のFX取引ができる仕組みだ。
実例を挙げてみる。損得実現の手段は2つある。買った時よりも安く売るか、高く売るかという単純な為替売買による損益と、『スワップポイント』と呼ばれる金利収入だ。
超低金利の日本の資金を使って、高金利の海外為替を買い付けることで、例えば米ドルであれば1日140円/1万ドル(業者によって差がある)の「利息」を得ることができる。外貨定期と違うのは、満期がなく、相場の状況によって、投資家の判断で、すぐにでも円に交換することができるのも利点の1つである。
無申告で摘発を受けたシロウト投資家たちは、FX取引でいかにして大金をもうけたのか。
実際の相場に基づいて検証する。例えば投資家が、1000万円を元手に「レバレッジ」10倍の契約で外貨を購入したとする(=1億円相当の外貨購入可能)。
そして、取引開始は、ちまたに雨後の筍(たけのこ)のように証拠金業者が噴出した2002年4月とする。
この時に、ユーロを買い付けると当時、1ユーロ 115.50円だったので、86万5800ユーロの買い付けが可能になる(本来は、1万通貨単位での注文であるが、便宜的に全資金を外貨に投じたと仮定する)。
これを5年間持ち続け、今年の4月に売却(円転)すると1ユーロ 162.00円で、1億4025万9600円に転換できる。元手の1億円を控除すると、もうけは4000万円! これとは別に5年間の利息も入る。
(写真はイメージ) ユーロ圏の政策金利が5年間で2.00パーセント??3.75パーセント(現在3.75パーセント)の推移だ。一方、日本は、ゼロ金利政策を取っていたので0.00パーセント??0.50パーセント(現在0.50パーセント)である。そして、この金利差により得られる『スワップポイント』は概算で2000万円(1日130円/1万ユーロで試算)となる。
このように、運用がうまくいけば1000万円の元手で、6000万円の利益を得られる。証拠金倍率を上限の100倍(この事例の10倍)とすれば、運用できる外貨は、10億円分となり、利益も10倍。シロウトでも簡単にもうけられる。
本来であれば、この為替差益と『スワップポイント』を一時所得として申告する義務があるのだが、今回摘発を受けた諸氏はこれを怠っていた。
政策金利が現在9.00パーセントと高く、『スワップポイント』に魅力が集まり、投資の対象として膨らんでいる南アフリカの通貨『ランド』ではどうか?
前述と同じように2002年4月、11.80円/1ランドで1億円分の847万4500ランドを買い付け、2007年4月、16.80円/1ランドになったところで売却すると1億4237万1000円となり、これも4000万円弱の為替差益になる。
『スワップポイント』は、期間中の政策金利が7.00パーセント??13.50パーセントで推移しており、平均1日30円/1万ランド。概算であるが、5年間で4600万円の金利収入が得られる計算であり、あわせて9000万円弱の収益だ。
もちろん相場であるから、良いことばかりではない。
かたや同時期に米ドルを買った場合はどうか? 当時1米ドル 131.30円で買い付けた76万1600ドルは、ドル安が進み2007年4月、1米ドル119.70円まで高騰した。円転すると9100万円弱となり、900万円の為替差損が発生することになる。
それでも『スワップポイント』が1600万円ほどつく計算なので、この期間における損失は、発生しないことになる。
実はこれが、海外金利差の魅力である。ただし、期間中、米ドルは、1ドル103.46円(2004年3月)という最安値をつけており、この時点で証拠金は没収、追加証拠金(追証)発生となっているはずで、米ドル運用を5年継続するのは困難であるが。
ところでFXは、前述のように2005年7月の法改正までは、まったくの無法地帯で、業者(FX業者)は届け出さえすれば、顧客から運用資金を預かり、取り引きをすることができた。このため、過去の商品先物取引業者によく見られた、「テバリ(顧客の注文を無視し、自社の思惑で相場を張る)」や「ノミ(顧客の注文を受けながら、外貨を買わず損をした時だけ証拠金から資金を引き出す)」が、公然と行われていた。それでも、相場自体が円安傾向であったため、外貨買い付けだけを行っていれば安定した運用を行うことができていた。
それでは、今回多くの査察を受けた投資家はなぜ当局にばれたのか? 真相はこうである。
2005年9月、法改正後2カ月間に4社のFX業者が破たんした。特に、独立最大手G社の破産は、業界にとって、衝撃的だった。顧客の預かり金を「テバリ」により、1000億円規模の損失を計上。当時G社に資金を預けていたほとんどの顧客には、今も資金は返金されていない。
さらに、行政処分や裁判における過程で提出された破たん各社の資料により、過去の取引で多くの顧客に無申告の雑所得があることが判明し、国税局挙げての反面調査に発展した。
当局が持つ、税務調査権により、過去の取引と確定申告書、銀行口座取引を徹底調査した。その結果が、冒頭の告発であったり、1000人規模の修正申告につながったのである。
当時、悪徳業者は、為替利益が出た際の申告の必要性を顧客に伝えることなく、営業員の中には、収益をあげた顧客に、リベートを要求したやからも実在する。
確かに2004年までの税務相談のマニュアルには、先物取引に斯(か)かる雑所得しか明記されておらず、FXがマニュアルに掲載されたのは2005年度からで、税務当局も後追いとなった感は否めない。
「どうやら当社は危ないらしい。取引を手仕舞(じま)ったほうが良い」と、自社の危険を察知したFX営業マンが自己の顧客に忠告し、利益を実現させて多額のリベートを要求し、会社破たん前に逃げ去った「レミングのネズミ」たちがいた。
営業マンの言葉に乗ることのなかった投資家たちは、FX業者の破たんとともに、利益を実現することなく、運用資金を雲散霧消することとなった。前者は皮肉にも税務調査を受け、追徴課税やら告発やらを受けている。押すも引くも地獄であった。
納税は国民の義務であり、これを否定するものではないが、リベートを得たものに対する調査も、しっかりやって欲しい、というのが摘発を受けた被告たちの偽らざらぬ心情であるようだ。
法改正で悪徳業者はおおむね駆逐され、安心できる環境が整っている。東京金融先物取引所も開設し、取引所での取引については、収益が源泉され、申告の必要もなくなった。ただし、流通量の少ない通貨(例えば南アフリカのランドなど)については取引所での扱いはなく、申告は投資家任せである。
が、今回の集中検査によって、意識的な不申告は激減するだろう。投資家の預かり金も、証券会社同様に分別管理され、信託勘定としている業者が大半になってきた。この環境の変化が、FX取引量を5年で30倍以上にならしめた最大の要因であると思量する。
FXに関しては業者主催や、カリスマ投資家などが勉強会を開催、投資家の卵たちが多く参加しているシーンを、テレビで見受けられるようになったきた。しかし、FXは、突き詰めればサイコロの丁半バクチと似たりよったりで、どちらに転ぶかは誰1人として予測できない。
評論家は、結果だけをもとにさまざまなウンチクを語るだけで、結果責任を追うことはない。業者が信用できるのであれば、日本の低金利政策が続く限り、FXは推薦できる運用手法であるが、「証拠金取引」とは『身の丈に合っていない取引』を行っているということを、常に肝に銘じて参加してもらいたいものだ。
人間、欲が出ると、そんなことはすぐに忘却する動物ではあるが。
(注:相場データは概算であり、業者により手数料・スワップポイントは異なる)
4月に摘発された事例では、59歳の主婦がFXや先物取引で得た4億円あまりの利益を、申告せずに1億3000万円の脱税で告発されている。また5月には、タックスへイブン(租税回避地)を利用した海外先物取引等で、7億6000万円の所得を隠し、2億7000万円の脱税を告発された無職男性が逮捕されている。
(写真はイメージ) FX取引とはそんなにもうかるものなのか? 近ごろ、昼間のテレビのワイドショーでは、5分程度の特集で、FXの魅力が紹介されている。
私は、ここでテレビでは語られない過去の闇について詳述したい。ただし、2005年7月に施行された「改正金融先物取引法」により、悪徳業者は駆逐され、FX取引業者の信用力は、以前に比べて格段に高まっていることを事前に書き留(と)めて置く。
まず、基本的なFX取引の実態を検証してみたい。
FX取引の最大のメリットは、少ない元手(資金)で大きな取引ができることだ。これは「レバレッジ(てこ)」と言われ、投資家が証拠金(担保)を取引業者に預けることで、その数倍から数10倍の金額のFX取引ができる仕組みだ。
実例を挙げてみる。損得実現の手段は2つある。買った時よりも安く売るか、高く売るかという単純な為替売買による損益と、『スワップポイント』と呼ばれる金利収入だ。
超低金利の日本の資金を使って、高金利の海外為替を買い付けることで、例えば米ドルであれば1日140円/1万ドル(業者によって差がある)の「利息」を得ることができる。外貨定期と違うのは、満期がなく、相場の状況によって、投資家の判断で、すぐにでも円に交換することができるのも利点の1つである。
無申告で摘発を受けたシロウト投資家たちは、FX取引でいかにして大金をもうけたのか。
実際の相場に基づいて検証する。例えば投資家が、1000万円を元手に「レバレッジ」10倍の契約で外貨を購入したとする(=1億円相当の外貨購入可能)。
そして、取引開始は、ちまたに雨後の筍(たけのこ)のように証拠金業者が噴出した2002年4月とする。
この時に、ユーロを買い付けると当時、1ユーロ 115.50円だったので、86万5800ユーロの買い付けが可能になる(本来は、1万通貨単位での注文であるが、便宜的に全資金を外貨に投じたと仮定する)。
これを5年間持ち続け、今年の4月に売却(円転)すると1ユーロ 162.00円で、1億4025万9600円に転換できる。元手の1億円を控除すると、もうけは4000万円! これとは別に5年間の利息も入る。
(写真はイメージ) ユーロ圏の政策金利が5年間で2.00パーセント??3.75パーセント(現在3.75パーセント)の推移だ。一方、日本は、ゼロ金利政策を取っていたので0.00パーセント??0.50パーセント(現在0.50パーセント)である。そして、この金利差により得られる『スワップポイント』は概算で2000万円(1日130円/1万ユーロで試算)となる。
このように、運用がうまくいけば1000万円の元手で、6000万円の利益を得られる。証拠金倍率を上限の100倍(この事例の10倍)とすれば、運用できる外貨は、10億円分となり、利益も10倍。シロウトでも簡単にもうけられる。
本来であれば、この為替差益と『スワップポイント』を一時所得として申告する義務があるのだが、今回摘発を受けた諸氏はこれを怠っていた。
政策金利が現在9.00パーセントと高く、『スワップポイント』に魅力が集まり、投資の対象として膨らんでいる南アフリカの通貨『ランド』ではどうか?
前述と同じように2002年4月、11.80円/1ランドで1億円分の847万4500ランドを買い付け、2007年4月、16.80円/1ランドになったところで売却すると1億4237万1000円となり、これも4000万円弱の為替差益になる。
『スワップポイント』は、期間中の政策金利が7.00パーセント??13.50パーセントで推移しており、平均1日30円/1万ランド。概算であるが、5年間で4600万円の金利収入が得られる計算であり、あわせて9000万円弱の収益だ。
もちろん相場であるから、良いことばかりではない。
かたや同時期に米ドルを買った場合はどうか? 当時1米ドル 131.30円で買い付けた76万1600ドルは、ドル安が進み2007年4月、1米ドル119.70円まで高騰した。円転すると9100万円弱となり、900万円の為替差損が発生することになる。
それでも『スワップポイント』が1600万円ほどつく計算なので、この期間における損失は、発生しないことになる。
実はこれが、海外金利差の魅力である。ただし、期間中、米ドルは、1ドル103.46円(2004年3月)という最安値をつけており、この時点で証拠金は没収、追加証拠金(追証)発生となっているはずで、米ドル運用を5年継続するのは困難であるが。
ところでFXは、前述のように2005年7月の法改正までは、まったくの無法地帯で、業者(FX業者)は届け出さえすれば、顧客から運用資金を預かり、取り引きをすることができた。このため、過去の商品先物取引業者によく見られた、「テバリ(顧客の注文を無視し、自社の思惑で相場を張る)」や「ノミ(顧客の注文を受けながら、外貨を買わず損をした時だけ証拠金から資金を引き出す)」が、公然と行われていた。それでも、相場自体が円安傾向であったため、外貨買い付けだけを行っていれば安定した運用を行うことができていた。
それでは、今回多くの査察を受けた投資家はなぜ当局にばれたのか? 真相はこうである。
2005年9月、法改正後2カ月間に4社のFX業者が破たんした。特に、独立最大手G社の破産は、業界にとって、衝撃的だった。顧客の預かり金を「テバリ」により、1000億円規模の損失を計上。当時G社に資金を預けていたほとんどの顧客には、今も資金は返金されていない。
さらに、行政処分や裁判における過程で提出された破たん各社の資料により、過去の取引で多くの顧客に無申告の雑所得があることが判明し、国税局挙げての反面調査に発展した。
当局が持つ、税務調査権により、過去の取引と確定申告書、銀行口座取引を徹底調査した。その結果が、冒頭の告発であったり、1000人規模の修正申告につながったのである。
当時、悪徳業者は、為替利益が出た際の申告の必要性を顧客に伝えることなく、営業員の中には、収益をあげた顧客に、リベートを要求したやからも実在する。
確かに2004年までの税務相談のマニュアルには、先物取引に斯(か)かる雑所得しか明記されておらず、FXがマニュアルに掲載されたのは2005年度からで、税務当局も後追いとなった感は否めない。
「どうやら当社は危ないらしい。取引を手仕舞(じま)ったほうが良い」と、自社の危険を察知したFX営業マンが自己の顧客に忠告し、利益を実現させて多額のリベートを要求し、会社破たん前に逃げ去った「レミングのネズミ」たちがいた。
営業マンの言葉に乗ることのなかった投資家たちは、FX業者の破たんとともに、利益を実現することなく、運用資金を雲散霧消することとなった。前者は皮肉にも税務調査を受け、追徴課税やら告発やらを受けている。押すも引くも地獄であった。
納税は国民の義務であり、これを否定するものではないが、リベートを得たものに対する調査も、しっかりやって欲しい、というのが摘発を受けた被告たちの偽らざらぬ心情であるようだ。
法改正で悪徳業者はおおむね駆逐され、安心できる環境が整っている。東京金融先物取引所も開設し、取引所での取引については、収益が源泉され、申告の必要もなくなった。ただし、流通量の少ない通貨(例えば南アフリカのランドなど)については取引所での扱いはなく、申告は投資家任せである。
が、今回の集中検査によって、意識的な不申告は激減するだろう。投資家の預かり金も、証券会社同様に分別管理され、信託勘定としている業者が大半になってきた。この環境の変化が、FX取引量を5年で30倍以上にならしめた最大の要因であると思量する。
FXに関しては業者主催や、カリスマ投資家などが勉強会を開催、投資家の卵たちが多く参加しているシーンを、テレビで見受けられるようになったきた。しかし、FXは、突き詰めればサイコロの丁半バクチと似たりよったりで、どちらに転ぶかは誰1人として予測できない。
評論家は、結果だけをもとにさまざまなウンチクを語るだけで、結果責任を追うことはない。業者が信用できるのであれば、日本の低金利政策が続く限り、FXは推薦できる運用手法であるが、「証拠金取引」とは『身の丈に合っていない取引』を行っているということを、常に肝に銘じて参加してもらいたいものだ。
人間、欲が出ると、そんなことはすぐに忘却する動物ではあるが。
(注:相場データは概算であり、業者により手数料・スワップポイントは異なる)
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by ssyamame
| 2007-12-26 10:48
| 経済

